2004年06月30日

黄金時代からは考えられない事態

 ライブドアは6月30日、大阪近鉄バファローズ球団買収に
向けて現在交渉中だと発表した。いまだ確定的な合意に至
っておらず、何も決定されていないとしている。

10年前は近鉄がこんな球団になるなんて誰も予想できなかった
だろうな。1988年10月19日の近鉄がまさに最高潮だったのかも
しれない。

当時の近鉄は「阿波野、小野、山崎、高柳、吉井」といったピッチャーが非
常に安定しており、また打線においても、「大石、新井、ブライアント、オグリ
ビー」と非常に安定していた。前半戦はそれほどでもなかった近鉄。後半戦
に脅威の巻き返しをはかり、ついにこの日、ロッテ25、26回戦(ダブルヘッダ
ー)で2連勝すれば、先にペナントレースを終えている1位西武を抜き去り、
見事130試合目(当時の最終戦)でリーグ優勝出来るところまで来ていた。
第1試合9回表、梨田(現監督)の決勝タイムリーであと1勝と迫ったが、ド
ラマは第2試合目に待っていた。第2試合、午後6時44分開始。先手を取っ
たのは、またしてもロッテだった。2回裏、近鉄先発の高柳がマドロックに1発を
浴び、1点を許す。一方、近鉄打線はロッテ先発の園川の前に沈黙が続く。
6回表、漸くオグリビーのタイムリーで同点に追いつくと、7回表には吹石のソロ
ホームランで勝ち越し、更に真喜志にもホームランが出て、 3対1。2点のリー
ドを奪う。残り3回。優勝が見えてきた。
しかし7回裏、高柳が岡部にソロホームラン、代った吉井も西村にタイムリーを
打たれ、あっさり同点においつかれてしまう。 10月に入って18日間で17試合
という強行軍をこなしてきた近鉄投手陣。その疲れが一気に吹き出した形だ。
8回表。ブライアントが力でねじ込むソロホームランで再び近鉄勝ち越し。中日
の2軍で燻っていたのを6月に移籍して来てから、74試合で34ホームランという
驚異的なペースで打ち続けたブライアントが、最後にたまその底力を発揮した。
その裏、第1試合に続きエース・阿波野が連投のマウンドに上がる。近鉄ファン
は誰もがこれで試合は決まったと思った…。
この試合、優勝が決まる1戦というのにテレビ中継は関西ローカルのみで、関東
では放映予定がなかった。それはテレビ局、いや世間のパリーグに対する意識を
如実に示していた。しかし激烈な試合展開に、権利を持つテレビ朝日が急遽放
映を決定し、「さすらい刑事」をふっ飛ばして、CM抜きで中継を始めた。更に午
後10時、テレ朝の看板番組「ニュース・ステーション」が始まると、その冒頭、久米
宏キャスターが開口一番、言った。
「川崎球場が大変なことになっています!」
そう、試合は大変なことになっていたのだ。
優勝への「胴上げ投手」としてマウンドに上がったはずの阿波野。しかし連投の
疲労で球にいつものキレがない。首位打者を狙う高沢に得意のスクリューを打た
れて同点ホームラン。試合はまたしても振り出しに戻ってしまう。しかも、回は残
り、1回。そして4時間を超えて延長はしないというルールのため、近鉄は時間とも
戦わなければならなかった。
にもかかわらず致命的な時間のロスが近鉄を見舞う。
9回表が無得点に終った近鉄はその裏、1分でも早くロッテの攻撃を断って、1回で
も多く延長の時間を確保したいところだった。ところが阿波野は先頭の古川にライト
前ヒットを許した上、袴田のバントをキャッチャー梨田とお見合いして内野安打にし
てしまい、無死1、2塁。サヨナラ負けのピンチを迎える。
問題の「事件」は、この時起った。阿波野が2塁に投じた牽制球、高目に浮いた球
を大石が飛び上がってキャッチ。そのまま2塁走者古川にタッチした。この時、古川の
足が塁から離れた。アウト。だがロッテ・ベンチから有藤監督が飛び出し、猛然と抗議
する。大石が古川を押した、走塁妨害だというのだ。抗議は長引く。5分、6分…。そ
の間に逆に延長4時間の残りリミットは少なくなっていく。客席から激しくヤジが飛び、
近鉄の仰木監督も憤然となって2塁に詰め寄る。結局、判定は覆らず、この間、9分
の中断。その後阿波野は2死満塁のピンチを招く。しかし愛甲がレフトに打ち上げ、
淡口が地面すれすれでキャッチ。10回表。
時刻は午後10時30分。時間的に見て近鉄の攻撃はこの1回が最後。先頭のブライ
アントがエラーで出塁し、無死1塁。しかし期待のオグリビーは三振。バッターは1979、
80年のV2戦士、ベテランの羽田。羽田の打球は二塁・西村の前に転がる、ダブルプレ
ー…。
この瞬間、近鉄の優勝は消えた。
10回裏。守備につく近鉄のナイン。もう、優勝はない。だが、まだ試合は続いて
いる。虚しい守備…。だが、近鉄ナインは全力でロッテ打線を抑えた。2死から
ロッテ・最後の打者、古川が三振し、梨田がこの試合最後の、そして自身の現
役最後のボールを捕球した。
牽制死をめぐっての中断が災いし延長10回時間切れ引き分けに終わり8年ぶ
りの優勝を逃した。ちなみにこの試合の視聴率は46%を超えたという。
このとき近鉄というチームが与えた感動は今に語り継がれるほどすばらしいものだ
った。
更に近鉄は翌年のリーグでドラマを作る。89年のペナントレースも荒れに荒れ、
残り4試合で近鉄、西武、オリックスの3チームが優勝出来る状態だった。その中
でも西武が抜け出ていた。そして、行われたダブルヘッダー近鉄対西武。近鉄が
2連勝する。ここで残り2試合、まだこの時点では3チームに優勝の可能性が残さ
れてが、西武が負け、オリックスも負け、近鉄は藤井寺球場でダイエーを退き、見
事129試合目で念願のリーグ優勝を果たした。歓喜のマウンドで両手を突き上げ
ていたのは一昨年の悔しいマウンドを送ったエース阿波野であった。
88年130試合目で優勝を逃がし、89年は129試合目で栄冠を手にした。まさに
259試合をかけて掴み取ったリーグ制覇であった。
現在の近鉄ファンはみんなこのときの試合に感動した人たちだと思う。だから、今の
近鉄ファンの怒りは想像に難くない。本当に悲しい出来事だ。

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Posted by hotstaff at 2004年06月30日 19:44 | TrackBack
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